働き方を“哲学”する | WORK STYLERのとある1日

今回登場するWORK STYLER田中康寛さんの仕事は、よりよい働き方を研究すること。日々、哲学者のように思考を重ねて、一人ひとりの幸せな瞬間を増やす働き方を模索しています。企業が定めた働き方を受動的に受け取るのではなく、自分自身で働き方を設定する——そんな少し未来の働き方のアイデアが、田中さんの頭の中では芽生えているようです。ある1日の様子から、田中さんの思考をのぞいてみました。

Profile

ワークスタイル研究所 研究員

田中康寛さん

2013年に新卒でコクヨに入社し、ファニチャー事業本部でオフィス家具の商品企画やマーケティングを担当。2016年にワークスタイル研究所に異動。コクヨのオウンドメディア「WORKSIGHT」の編集に携わるほか、ワーカーの仕事観の診断ツール「#workTag」を軸とした働き方の研究を行っている。

企業でやりたいことをやらせてもらう以上は使命感を持つ

通勤ラッシュを避けて9:30に出社する。今日は社外での打ち合わせやセミナーがないので、終日思考をする日だ。こういう日は1日の多くをビジネスプランの構築に時間を割いている。

ワークスタイル研究所に異動してから2年。次世代を見据えた働き方を研究する、というのが研究所の役割であり、働き方をさまざまな切り口から研究している。

僕が取り組んでいるテーマは2つ。1つは、世界中の先進的なオフィス空間について、どんな目的で設計され、どう使われているのかを調査・発信すること。もう1つは、仕事観という人の内面に焦点を当てた働き方の研究だ。

少し前、働く意味の見出し方はいくつかの傾向があるという仮定のもと、日本人の仕事観を調査し、「#workTag」というコンテンツを作った。17個の質問に答えると、9つの仕事観タイプに分類されるという診断ツールで、自分が働く中で何を重視するのか、そして同僚とはどう違うのかを考えるきっかけとなるコンテンツだ。

最近はこれを使って、チーム活動が活性化するメンバーの組み合わせを研究したり、働き方設計にまつわる新規サービスを開発したりといった業務に取り組んでいる。今は新規サービスの企画書を練り上げることに重きを置いている。

働く人の課題を仮説立てしては、サービスの対象になりうる人の声を聞き、企画書の解像度を上げる。理想のサービスを思い描き、少しずつそこに向かってパーツを構築していく作業は、地道だけどすごく楽しい。反面、一人で試行錯誤することも多いので、出口が見えない迷路を進んでいるような孤独感を感じることもある。

しかし、自分から「やりたい」と言ってやらせてもらっている以上、誰かの役に立つものを作り上げなければという使命感を持っている。

飲み会の愚痴をポジティブな話題に変えるには


入社後に配属されたのは、オフィス家具のマーケティングを行う部署だった。もともとイス作りに関わりたかったので仕事には夢中になれたけれど、3年くらい経ったころにもっと俯瞰的に働くことを考えたいと思うようになった。

ちょうどその頃に、社内のプロジェクトに参加することになった。「働く」をよりよくするためにはどうしたらいいか、というのがお題だった。このときにプロジェクトメンバーと思いついたのが、「#workTag」の原型だ。

性別や年齢といった目に見える属性だけではなく、本当はどう働きたいのかという人の内面に目を向けて働き方をデザインできれば、人生が豊かになる人もいるだろう。世の中を変えたいなんて大それた野望は持ち合わせていないけれど、みんなが少しでも喜びを感じて働くために僕にできることは何かないだろうか——。こうして僕の働き方探求は始まった。

そういえば社会人になったばかりの頃、居酒屋で繰り広げられる会話って、なんでこんなにも仕事の愚痴が多いのだろうと感じた。これがリアルな社会人の姿なのかと少しさびしさを抱いたのと同時に、飲み会の雰囲気をもっとポジティブに変えたいと考えるようになった。

そこで、そもそも仕事の愚痴が出る背景、つまり働き方や働く環境が個人にフィットすればよいのではと考えた。誰しも働いていて嫌なことや不快なことは出てくると思うけれど、自分の価値観に即した嬉しい瞬間があればポジティブにやり切れる。仕事自体に楽しさを感じる人もいれば、私生活を充実させるために働く人もいるだろうし、それぞれが自分の仕事観を信じられ、他者のそれを尊重できれば、愚痴も少なくなるのではないか。そんな念いで今の仕事に取り組んでいる。

理想の働き方は、働いている人に聞くのがいい

企画を修正しはじめて、あっという間に3時間が過ぎた。ひとまずお昼ごはんを食べよう。1人で会社近くのカフェに向かった。

コーヒーを飲みながら、午後やることを頭の中で整理する。午前中に考えていたアイデアを身近な人にぶつけてみて、意見を聞いてみよう。聞くべき項目を整理する。

新しいサービスを開発するときに、僕の知識や経験だけでは一人よがりになるだけだ。実際に働いている人がどういう理想を持っているのか、どんなことに困っているのかなど生の情報をヒアリングすることも大事だ。以前上司に「1人で考え過ぎる癖がある」と指摘されて以来、頭の中で思考したアイデアを周囲の人に投げかけてみてアドバイスをもらうように心がけている。

オフィスに戻って、近くにいた先輩に話しかけてみた。今気になっているのは「自由度高く働けるようになったときの問題は何か」ということだ。最近はカフェやワークスタイリングのようなオフィス以外の場所を、自由に選択して働く人も増えてきた。このような自由度の高さによって逆に困り事もでてくるのではないか。

その仮説を、先輩に投げかけてみた。突然の相談にも関わらず、先輩は頷きながら親身に話を聞いてくれた。それから、自身の体験をもとに、オフィスに行く理由やカフェを選ぶ理由を話してくれた。なるほど、そういう視点もあるのか。

30分くらい話を聞いてもらったのに、先輩は「また進捗教えてよ」と言ってくれた。自分の仕事もあるのに僕の相談に付き合ってくれるなんて、本当にありがたい。

再び、企画書の修正に戻る。今しがた得たばかりの新しい視点も取り入れて、思考を広げていく。考えなければいけないことはまだたくさんある。

飲み会での対話も、思考回路をアップデートする

今日は夜に友人と飲む予定がある。就業後、馴染みの居酒屋に向かうと、すでに友人が到着していた。

ビールを片手に、この日はなぜか数学のおもしろさについて盛り上がった。数学的な美とは何か、真理を追究することの醍醐味とは何か。人によっておもしろいと感じるポイントが違っていて、議論はどんどん思いがけない方向に進んでいく。お題は愛でも仕事でもよいのだが、対話の中で意見が化学反応していくと、脳内で新しい発想がどんどん生まれていく気がする。

やっぱり、飲み会では暗い仕事の話ではなく、笑ったり学べたり、ポジティブな話題で盛り上がりたいなと改めて思った。

一人ひとりが自分らしい働き方を実践できて、チームや組織も活性化する。そんなシーンを増やしたい。しかしながら、「自分らしさ」を自分自身で見つけるのは難しい。だからこそ、対話や仕事観診断のような自分を映す鏡を通して、自らの働き方を哲学するきっかけを作れないか模索している。まだまだ道半ばだが、働く人の声に耳を傾けながら、探求を続けていきたい。

Text : Kayo Murakami
Photo : Yuko Nara(numphoto.Inc)