「変化の時代こそ、目の前のことにフォーカスすべき」エンジェル投資家・有安伸宏さんが考える成功者の特徴

終身雇用が絶対でなくなった昨今、大企業に入社すれば安泰。そんな時代は終わりを迎えました。これからは自らの市場価値を上げながら、キャリアパスを考えなくてはいけません。とはいえ、どのように動けばいいのかわからないと悩んでいる人も多いのでは?

そこで今回は、外資系大企業を新卒入社で経験し、現在はエンジェル投資家としてスタートアップコミュニティの真ん中にいる有安伸宏さんに「日本の大企業にいることのメリット」、そして起業家を含むさまざまなビジネスパーソンを見てきたなかで感じる「これからの時代に成功する人間」について尋ねました。

どんなゲームも、ルールを把握することが大切

自ら立ち上げたスタートアップも軌道にのせ、現在ではエンジェル投資家として活躍している有安さんですが、大企業に勤めていた頃はなかなか成果が出ないこともあったとか。

「入社してすぐの頃はパッとしなかったんですよね。それは企業に勤めるということがどういうゲームなのかわかっていなかったから。しかも、ルールがそれぞれの組織によって違うわけです。でも、どんな仕事でもこうしたら得点が入るっていう勝つための手段があるので、それを理解してベストな施策が何なのかを把握するのが大事かなと思います」

ちなみに、有安さんは当時どのような仕事をしていたのでしょうか。

「シャンプーブランドのマーケティングチームに配属されたのですが、年間数十億円ある予算を使って、ブランドマネージャーとアシスタント2人のチームで商品開発をするんです。市場調査で消費者の家に行って、お風呂場を見せてもらったこともありましたね。『なぜシャンプーが2つあるんですか?』『娘とお父さんでシャンプーで保管場所が違っていて』みたいな消費者に密着したユーザー調査をしていました。そこで得た知見を活かして商品や広告の開発をしていたのですが、そうやって消費者が気づいていない生活の不満や不安を言語化しながら、マーケティングのノウハウを学べたのは今でも活きていると思います」

大企業で就業した後、独立して起業という道を選びました。あらためて大企業で働いていたときと比べると、どのような違いがあるのでしょうか?

「やっぱり起業はすごく大変ですよね(笑)。人数が少ないから、経理業務も社長がやらなければいけなかったり、人事採用の仕組みも労務管理ルールも全部1から作らないといけなかったり。いかに大きな組織に助けられていたかを実感します。あと、大企業だとすでに個人にミッションとルールがあるのが楽ですよね。役割もゴールもKPIもすでに決まっている。

それに対して、起業はゼロからゲームをつくるところからスタートしないといけません。これはものすごく大変なこと。だから、一度成功して事業売却をした起業家でも、二度目の起業には慎重になる人も多いんですよ」

人生設計ができないくらい流動的な時代だからこそ、今にフォーカスした方がいい

昨今は、スタートアップ企業への就職を選択する人も数多く存在します。あえて、大企業を選ぶメリットについて、有安さんはどのように考えているのでしょうか。

「インタビューで『大企業に就職してよかったですか?』と聞かれることも多いのですが、これはもうケースバイケースだと思っています。役に立ちそうだから大企業に行くとか、将来起業したいからこの職種を選ぶとかはあまり意味がないのかなって。

というのも、人生って計画できないんですよ。10年後に自分がどうなっているかなんて誰にもわからないじゃないですか。僕の場合は『外国人と一緒に英語で働いてみたい』『マーケティングのプロになりたい』という意志が強かったので外資系の大企業に就職しましたが、今はこうして独立しているわけですし。

起業したいのならすぐやればいいし、やりたいことがあるならその場でやればいいと思います」

つまり、目の前のことに100%注力して結果を出すことが大事だということ。その理由について、有安さんは次のように説明を加えます。

「これが50年前とかだったら、もう少し計画が立てられたと思うんですよね。いつまでに結婚して、家を買って、子どもは何人くらいほしいって。そういうスゴロク感が今はないですよね。変化のスピードがものすごく速いし、価値観も多様化しているから。

だから、自分のワクワクを大事にした方がいいですよ。その手段が大企業なのか、スタートアップなのか、はたまたNPOなのかという違いなだけの気がしています」

そして、その選択によって人生が大きく変わることはないと有安さんは言います。

「よく就活相談で『A社とB社の内定をもらっていて、どっちがいいですか?』と聞かれるんです。『それだけ悩んで両方行きたい会社なら、30歳になって振り返ったとき、どっちでもあんまり変わらないよ』と返すんです。それは起業することでも一緒で。要は納得感なんですよ。

起業するにしても、会社で働き続けるにしても、パッションが必要じゃないですか。何らかの信念がなければ成功はありません。悶々としながら働くんだったら、さっさと辞めたほうがいい。働いて成功することだけが人生ではありません。収入を減らしてでも子どもとの時間を増やしたいと思う人もいるでしょうし」

いろんな人生観や価値観があり、それが許容されるようになっている時代だからこそ、自分が納得できる仕事をした方がいいというわけです。

個人と会社はもっと相対的な関係になっていく

では、これから先、会社という組織は世の中にとってどのような存在になっていくのでしょうか。

「もっと相対的なものになると思います。会社という大きな枠組みの中に個人があるのではなく、会社と個人が対等な関係になっていくのではないでしょうか。僕たちより上の世代にとって「大企業」は絶対的な存在だったし、転職は覚悟がいることでしたよね。でも、これからは転職がもっと当たり前になっていくし、流動的に人が動くから個人の能力がもっと活きると思います」

そのためにはどのようなスキルを身につけておくべきなのでしょうか。

「僕は『スキル』という言葉が陳腐化していると思っています。経済が伸び続けていた昭和時代は、1つのスキルを極め、仕事人としての天寿をまっとうするのが当たり前でした。でも、今は変化の時代なので、状況によって必要とされるスキルが次々と変わる。だから、資格を持ってるから安心みたいな考え方がいちばん危険ですよね。市場が縮小した瞬間に意味をなさなくなりますから」

なるほど。では、どのような人であれば生き残っていけるのでしょうか。

「自分軸で生きてる人じゃないですかね。何が好きで、何に没頭できるのかを知っている人は強いと思います。あとは自分にしかできない経験を積むこと。だから、危ない状況に飛び込んでいくのもいいと思うんですよね。

例えば、会社がものすごく危機的な状況で経験を積めば、それだけで一気に危機管理のプロになることもできるわけです。そういった機会を見つけたら、すかさず挑戦してみたらいいですよ。

そして、組織人でいるならばしたたかさを持つことも大切です。得点式なのか、減点法なのか、組織の評価ルールを暗黙的な部分まで正確に理解する。訪れたチャンスは絶対に見逃さない。大企業であればあるほど、その意識は持っておいた方がいいと思います」

「人生を焦る必要はない」と有安さん。大企業であろうと、スタートアップであろうと働く情熱がなければ、結果を出すことはできないというわけです。もし現状に対して納得感がない場合は、その原因が何かを探ってみると解決策が見つかるかもしれませんね。

Profile

投資家
有安伸宏

1981年神奈川県生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。大学在学中に株式会社アップステアーズを創業。大学卒業後はユニリーバ・ジャパンに就職。同社退職後、慶應義塾大学SFC研究所員を経て2007年にコーチ・ユナイテッドを創業。2013年に同社の全株式をクックパッドへ売却。2015年にTokyo Founders Fundを共同設立、米国シリコンバレーのスタートアップへの出資などを行う。投資先はマネーフォワード、キャディ、WAmazing等、日米約60社に及ぶ。

Text:Kodai Murakami
Photo:Kaoru Fukui