西村さんの普段のお仕事について教えてください。
「NPO法人ミラツク」の代表、「理化学研究所」のイノベーションデザイナー、そして大阪大学で教員をやっています。これ以外に、個人でも様々な活動を行ったり、いくつかのベンチャー企業の顧問や企業研究所のアドバイザーなどをさせていただいています。今日は自分が代表を務める「NPO法人ミラツク」をメインにお話させていただければと思います。ミラツクは、違う職業・違うセクター・違う地域の人をフラットにつなげて、新しい協働・共創をつくりだすためのNPOです。ちょっとわかりにくいかもしれないのですが、例えば学会だと、同じ領域の研究者がいっぱい集まっていますよね。経済同友会みたいな集まりだと経営者がいっぱい集まっていますよね。我々のネットワークには研究者も経営者もいますけど、同じ職業や同じ領域の人が複数いるということではないんです。それぞれ異なる専門性をもった人たち個々によるネットワークになっています。
組織においてイノベーションを実現化するために必要なことはなんでしょうか?
これはどの組織においても同じことが言えるのですが、まず「出口を設定する」こと、これが1番大事ですね。ここを明確にしないと、出口つまりゴールが描けないんです。本当に様々な組織から全く違うテーマや取り組みで相談を受けるのですが「出口はどこなんですか?」というのが最初に必ず行う質問です。出口が設定できれば、そこに向けて乗り越えなきゃいけない承認のハードルを1つひとつクリアしていくフローに入ります。例えば、商業施設で「今までにやったことのない新しい商業施設をつくりたい」というオーダーがあったら、そこが出口(ゴール)だとして、「収益性は確保しなければならない」とか「これだけの店舗数が入ることを前提にしなければならない」などのハードルを超える必要があります。それらのハードルを越えることはもちろん大変です。でも、出口を設定しないまま、動き出してしまうと、ずっとそこから出られずに迷走を続けてしまうことになります。
「イノベーション事業部に配属されたは良いが、実験的なことがさせてもらえない」というお話をよくお聞きするのですが、どうすれば状況を変えられるのでしょうか?
そうですね。よくわかります。「なぜ実験的なことができないか」というと、結局これも「出口」の存在が密接に関わっています。いろいろと社外の人に相談する前に、自分の組織内で「何をもっていけば良しとしてくれるんですか?」ということを決めておかないと、恐らく何を持っていってもダメと言われますね。自分たちのチーム内で頑張って色々と考えたことを、上層部に持っていっても、延々とNGを繰り返すというパターンもありがちです。なぜなら上層部も「何をもって良しと判断するか」が決まっていないから。だから、組織内(イノベーション実行チームも、それを判断する上層部も)で、出口を設定しておかなければならないんです。出口が設定できれば、社外の人たちも協力できますし、成果の有無も明確になります。そして、もちろん実験的なことに挑戦させてもらえる目も出てきます。何か新しいことに取り組む時「どう取り組めば良いか」のプロセスは実はそんなにややこしくないんです。もちろん、最初は情報やネットワークのリソースが圧倒的に足りないので苦労しますが、でも、プロセス自体はシンプルです。問題は、是非の評価軸がなくて進めないことや、出口がなくてどんづまりになっているという、組織的な課題の方が思いのほか多い。とはいえ初めてだとそこに強く踏み込めず、まずスタートを切ることばかりに重きを置きがちなのが問題点だと思います。
プロフィール
西村 勇哉
新領域事業開発、フィールドワーク、リーダーシップ・人材育成
NPO法人ミラツク代表理事 /
株式会社エッセンス代表取締役