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2019年4月に働き方改革推進法が施行されて以来、広がりを見せている働き方改革への取り組み。しかし、経営資源の限られる中小企業では、本格的な改革が難しい場合もあるかもしれません。
そんな中、労働時間削減などに取り組む中小企業事業主を支援する「働き方改革推進支援助成金」制度があります。この記事では、働き方改革推進支援助成金の概要および5つのコースの詳細を解説します。また申請の流れや、よくある質問とその回答もご紹介します。
参照:厚生労働省愛知労働局 | 「働き方改革関連法」の概要
「働き方改革推進支援助成金」とは、働き方改革に取り組む中小企業を助成する制度です。労働時間の縮減、年次有給休暇の取得促進、勤務間インターバル制度の導入などの施策に対して支援がおこなわれます。生産性を高めながら働き方改革に取り組む企業への支援により、中小企業の長時間労働の改善を目的としています。
なお、本事業の対象となる中小企業とは、表のAまたはBの要件を満たす企業を指します。
業種 | A.資本、出資額 | B.常時使用する労働者 |
---|---|---|
小売業(飲食店含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 (病院、診療所等は300人以下で該当) |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
2024年度の働き方改革推進支援助成金制度(申請締め切り:2024年11月29日)は、2023年度より制度の内容が一部変更されています。
ポイントは「適用猶予業種等対応コース」から「業種別課題対応コース」に名称が変更になった点です。2024年4月1日を以て建設・運送業、医師などに適用されていた時間外労働の上限規制が撤廃されたことにともなう変更で、成果目標が一部追加されています。また、2023年度は5つのコースがありましたが、2024年度から、労務・労働時間の適正管理を推進する「労働時間適正管理推進コース」が廃止となり4コースになったので注意してください。
それでは、2024年度働き方改革推進支援助成金で設定されている4つのコースを見ていきましょう。コースごとに支給対象となる中小企業事業主の要件、助成額の上限は次のとおりです。
コース | 支給対象となる中小企業の要件 | 助成額の上限 |
---|---|---|
労働時間短縮・年休促進支援コース |
|
|
勤務間インターバル導入コース |
|
|
団体推進コース |
|
|
業種別課題対応コース(旧適用猶予業種等対応コース) |
|
|
2020年4月から、中小企業も時間外労働の上限規制の対象となっています。規制に従い、時間外労働の削減、年次有給休暇や特別休暇の取得促進などに取り組む中小企業への支援を目的に設定されるのが当コースです。
事業実施期間は交付決定日から当該交付決定日の属する年度の1月31日までとなっており、期間内に取り組みを実施する必要があります。交付申請の期限は2024年11月29日(金)まで(必着)です。支給対象事業主数には制約があるため期限以前に受付を締め切る場合があるので注意してください。
参照:厚生労働省 | 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
労働時間短縮・年休促進支援コースの支給対象となるのは、次の1〜3のすべてを満たす中小企業の事業主です。
助成金の支給を受けるためには、以下の項目よりいずれか1つ以上の取り組みをおこなわなければなりません。
労働時間の短縮には、意識変容、社内ルールの整備と周知徹底、労務管理や事業効率化につながる情報システムの導入が欠かせません。上の9つの取り組みを通して、働き方改革の推進に努める中小企業を支援するコースです。
支給対象となる取り組みについて、次に挙げる3つの成果目標から1つ以上を選択しなければなりません。成果目標の達成度合いに応じて、助成額が支給される仕組みです。
2024年度から成果目標のうち「新型コロナ感染症対応のための休暇の導入」が助成対象から除かれましたので注意してください。
また、指定する労働者の時間あたり賃金額を3%以上引き上げることを成果目標に加えることも認められています。
成果目標の達成状況に応じ、取り組みにかかった経費の一部が助成されます。支給額は、成果目標(1)〜(3)ごとの上限額・賃金加算額の合計額、または対象経費の合計額×3/4の、いずれか低いほうの金額です。
成果目標 | 上限額 |
---|---|
成果目標(1) |
|
成果目標(2) | 25万円 |
成果目標(3) | 25万円 |
なお、指定した労働者の賃金引き上げを達成できた場合には、常時使用する労働者が30人超の事業主で最大240万円、常時使用する労働者数が30人以下の事業主で最大480万円が上表記載の上限額に加算されます。
勤務間インターバルとは、勤務終了後、次の勤務に従事するまでに一定の休息時間を設ける制度です。労働者の生活時間や睡眠時間の確保につながるとされ、導入が事業主の努力義務とされています。
中小企業による当制度の導入を支援し、労働環境の改善を図るのがこのコースの目的です。事業実施期間は交付決定日から当該交付決定日の属する年度の1月31日までで、期間内の取り組みが求められます。交付申請の期限は2024年11月29日(金)まで(必着)です。支給対象事業主数には制約があるため期限以前に受付を締め切る場合があるので注意してください。
参照:厚生労働省 | 働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)
支給対象となるのは、次の要件すべてを満たす中小企業事業主です。
勤務間インターバルをすでに導入している事業主であっても、要件を満たせば対象になるのがポイントです。
次の取り組みから1つ以上実施することが、支給を受ける条件となっています。内容は労働時間短縮・年休促進支援コースと同様です。
休息時間が9時間以上11時間未満、もしくは11時間以上となる勤務間インターバルを導入し、定着を図ることが目標です。事業主は目標達成のため、対象事業場にて勤務間インターバルの新規導入・適用範囲の拡大・時間延長に取り組まなくてはなりません。
本コースも、指定する労働者の時間あたり賃金額を3%以上引き上げることを成果目標に加えてよいとされています。
成果目標の達成状況に応じて、原則、取り組みにかかった経費の3/4に当たる額を助成してもらえます。ただし、下表記載の金額が上限です。
休息時間 | 上限額 |
---|---|
9時間以上11時間未満 |
【新規導入をおこなった場合】 100万円 【適用範囲の拡大または時間延長のみの場合】 50万円 |
11時間以上 | 【新規導入をおこなった場合】 120万円 【適用範囲の拡大または時間延長のみの場合】 60万円 |
労働時間短縮・年休促進支援コースと同じく、指定した労働者の賃金引き上げを達成した場合、所定金額を上限額に加算できます。
中小企業事業主で構成される団体や、その連合団体(以下、事業主団体等)に対する支援を目的としているのが団体推進コースです。事業主団体等が構成事業主の労働者の労働環境改善につながる取り組みをおこなった場合、取り組みに要した経費が支給されます。
事業実施期間は、交付決定日から当該交付決定の属する年度の2月14日までの間に取組を実施してください。申請の受付は2024年11月29日(金)まで(必着)です。支給対象事業主数には制約があるため期限以前に受付を締め切る場合があるので注意してください。
参照:厚生労働省 | 働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)
次の2つのいずれかに当てはまり、1年以上の活動実績がある事業主団体等が支給対象です。
事業主団体等を構成する中小企業とは、冒頭で紹介した要件を満たす企業を指します。
団体推進コースの支給を受けるには、下の取り組み項目より1つ以上を実施しなければなりません。
事業主ではなく、事業主で構成される団体等への支援が目的であるため、取り組み内容も他コースとは異なります。いずれも、構成事業主の労働環境改善につながる施策です。
支給対象となる取り組みについて、事業主団体等が時間外労働削減または賃金引き上げに向けた改善事業を事業実施計画に定めて実施し、構成事業主の1/2以上に対して取り組みそのものや取り組み結果を活用することが目標とされています。
成果目標の達成に向けて取り組んだ構成事業主に対し、取り組みにかかった経費が支給されます。次の3つのうち、いずれか低いものが支給額です。
上限があるとはいえ、経費の一部ではなく合計額が支給される点が特徴です。
業種別課題対応コースは、前年まで実施されていた適用猶予業種等対応コースに相当します。これまで時間外労働の上限規制の適用猶予を受けていた業種についても、2024年4月1日からは規制が適用されます。時間外労働削減や週休2日制の促進など、働き方改革に取り組む適用猶予業種の中小企業事業主を支援するのが目的です。
事業実施期間は交付決定日から2025年1月31日までで、期間内に取り組みを実施しなければなりません。交付申請期限は他コースと同じく、2024年11月29日まで(必着)です。
参照:厚生労働省 | 働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)
業種別課題対応コースの対象となるのは、以下4つの要件をすべて満たす中小企業の事業主です。
適用猶予業種に対する支援策であるため、対象業種が限られているのが大きなポイントです。
助成金の支給を受けるには、次の取り組みから1つ以上を実施する必要があります。取り組み内容は、団体推進コース以外の3コースと共通です。
下の成果目標のうち1つ以上を選択する必要があります。なお、業種によって選択できる目標が異なるため注意しましょう。
成果目標 | 建設業 | 運送業 | 砂糖製造業 | 病院等 |
---|---|---|---|---|
(1)令和6年度又は令和7年度内において有効な36協定で時間外・休日労働時間数を縮減し、月60時間以下または月60時間超80時間以下に上限を設定したうえで、所轄労働基準監督所長に届け出ること | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
(2)年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入すること | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
(3)時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入し、かつ、特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、不妊治療のための休暇、時間単位の特別休暇)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入すること | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
(4)9時間以上の勤務間インターバル制度を新規導入すること(運送業など該当する条件によっては10時間以上の勤務間インターバルが必要) | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
(5)4週5休〜4週8休の範囲で所定休日を増やすこと | ◯ | × | × | × |
(6)労務管理体制の構築等、医師の労働時間の実態把握と管理の両方をすべて実施すること | × | × | × | ◯ |
業種ごとに勤務体系が大きく異なるため、それぞれの特徴に応じた目標が設定されています。
上記の成果目標に加えて、賃金額の引上げを3%以上おこなうことを成果目標に加えることができます。
成果目標の達成状況に応じて、取り組みにかかった経費の一部が支給されます。支給額は下表の上限額および賃金加算額の合計額、または対象経費合計額×補助率3/4(常時使用する労働者数が30人以下かつ、支給対象の取り組みで6から9を実施する場合で、その所要額が30万円を超える場合は4/5)のいずれか低いほうとなります。
成果目標 | 上限額 |
---|---|
成果目標(1) | 【時間外労働時間数等を月60時間以下に設定】 最大250万円 【時間外労働時間数等を月60時間超80時間以下に設定】 150万円 |
成果目標(2) | 25万円 |
成果目標(3) | 25万円 |
成果目標(4) | 【新規導入の場合】 建築業及び砂糖製造業:最大120万円 運送業:最大170万円 病院等:最大170万円 【適用範囲の拡大または時間延長のみの場合】 建築業及び砂糖製造業:最大60万円 運送業:最大85万円 病院等:最大85万円 |
成果目標(5) | 1日増加ごとに25万(最大で100万) |
成果目標(6) | 50万円 |
より詳細な上限額設定については厚生労働省のサイトをご確認ください。
また、本コースも、指定した労働者の賃金引き上げが達成できた場合、一定の加算額が設定されています。
働き方改革推進支援助成金の支給を希望する場合は、次の流れに沿って手続きしましょう。
(1)交付申請 | 交付申請書を最寄りの労働局雇用環境・均等部(室)へ提出(2024年11月29日(金)まで) |
---|---|
(2)事業実施 | 交付決定後、提出した計画に沿って取り組みを実施(事業実施期間はコースによって異なる) |
(3)支給申請 | 事業実施期間終了後、労働局に支給申請書などを提出し支給申請 |
交付申請ならびに支給申請は所定書式でおこないます。コースごとに定められた提出書類があるため、併せて準備が必要です。
要件などが複雑な働き方改革推進支援助成金。ここではよくある質問に答えていきます。 各都道府県労働局や厚生労働省が設置している働き方改革推進支援センターまたは社労士事務所等に相談することも可能です
企業が常態的に使用している労働者の数を指します。常時働いている人であれば、パートタイム労働者や派遣労働者なども含める決まりです。申請にあたっては、労働保険の常時使用労働者数で使用している数字に準拠して記載するよう案内しています。
事業実施予定期間終了後に条件を満たさなくなった場合は支給対象となります。一方、事業実施予定期間内に満たさなくなった場合は支給対象外です。
個人事業主であっても、労働者を雇用しており各コースの要件を満たしていれば支給対象になります。
NPO法人であっても、職員を雇用しており各コースの要件を満たしていれば支給対象になります。
当制度は予算が設定されており、予算上限に達した場合は、申請期間内であっても予告なく受付終了となる可能性があります。必要書類等の準備を進め、できる限り早めに申請しましょう。
また、申請内容に不備や不足があった場合、期間内に申請したとしても助成金を受け取れないケースが考えられます。申請にあたっては、書類の不備にも気を付けましょう。
参照:厚生労働省 | R05 働き方改革推進支援助成金Q&A
参照:厚生労働省 | 事業場の規模を判断するときの「常時使用する労働者の数」はどのように数えるのでしょうか
人材不足が深刻化する昨今、働き方改革を進めて労働環境を改善したいと考えている事業主の方は多いことでしょう。
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