吉原さんのされているお仕事について教えてください。
私の仕事は大きく分けて3つになります。1つ目はフォークリフトの会社の役員です。長年経営されている会社でして、そこのマネージメントを経営陣として取り組んでいます。2つ目は数社の企業と一緒に「循環畑」という活動をしています。すごく簡単に説明すると、パートナーの企業の方々と実際に、基本的には雨水のみで自然と育つ畑で野菜やお米や麦が育つのを観察し、試行錯誤しながら、自然からの学びを土台に、企業経営に活かして行く仕事です。そして3つ目は出版系です。本を書いたり、翻訳をしたり、海外の色々な方々と触れ合いながら活動をしています。
「循環畑」について詳しく教えてください。
いわゆる一般的な畑というのは、人“が”食べるお野菜をつくります。しかし「循環畑」では、人“も”食べるお野菜をつくっています。一般的な畑って、虫がいたら害虫として排除しますよね。「循環畑」は、虫も動物も人も、お野菜を食べる畑ですので、何も排除しません。育て方も基本的には雨水のみ。肥料も科学的な肥料は使わず、枯れ草や落ち葉、虫や動物の糞などを使っています。私たちはこれを「無化学肥料」と呼んでいます。畑の中に虫や微生物や動物等の「いのちの循環」があり、その輪の中に人間も加わって、お野菜の恵みをいただくというのが「循環畑」です。岡山にある「循環畑」の大きい版の「循環みずたま村」では、鹿さんやアライグマさん達用の畝もあり、一緒に棲むことの実験が進んでいます。まさに人“が”住む村ではなく、人“も”棲む村です。これが北海道から沖縄まで全国に25ヶ所くらいあります。詳しくはYou Tubeに動画をアップしていますので、それを見ていただければわかりやすいと思います。
■「循環畑」に関する動画
https://youtu.be/K7rhicn2UKs
「循環畑」を通じてどのように経営を創っていくのでしょうか?
「循環畑」は雨水をはじめ自然の「いのちの循環」で作物が育っているため、極端な話、我々は1ヶ月に1回程度、畑に行くだけの場所もあります。だから、「自分が作物を育てた」という感覚はほとんど芽生えません。これを組織における人に置き換えるとどうでしょうか?会社では上司が部下を「育てる」という側面があります。これは1つの真実です。一方で、人が自分自身で環境の中で「育つ」ということもあります。しかし、世の中の組織は「育てる」に比重が偏っていることがほとんどです。「循環畑」は自然の叡智を実際に体感しながら、人が「育つ」環境や土壌づくりを考え、組織づくりや経営に活かしていくということをやっています。組織には上司が部下を育てる側面も、人が自分自身で環境の中で育っていく側面も両方あるべきです。大切なのは「育てる」と「育つ」という両極性を自覚することだと考えています。
「ティール組織」についても教えてください。
「ティール組織」についての書籍は日本、そして世界中で人気を博しましたが、著者のフレデリック・ラルー氏(以下、フレデリック)が言いたいことは、実は、英語の原書タイトルにあるように、「ティール組織」のことではなくて、「ティール組織も含めて、そこに至るまでの組織の再考案自体を可能とするような、人類自体のアウェアネスを高めていこう」ということなんですね。原書タイトル 『Reinventing organizations(組織の再考案)』(フレデリック・ラルー2014年)。この違いはとても大きいです。なぜなら、単に、ティール組織という表面上の変化に一喜一憂するのではなく、変化の根底にある人類のアウェアネス、つまり、世界を見る視点自体を自覚して、視点を高めていくことこそが重要であるからです。現在、フレデリック自身もエコビレッジに住み、気候変動の問題に取り組んでいます。僕たちの「循環畑」の取り組みにもエールを送り続けてくれています。まさに、当初の組織の再考案から、「社会や文明」へとフィールドが広がっているのが現状です。英語にはなりますが、『Adventures in Reinventing Work(2021年)』という書籍に一連の僕たちの取り組みとフレデリックからのエールが纏められていますので、ご関心のある方はぜひご覧ください。
■「循環畑」を通じたティール組織の実践に関する記事
https://nol-blog.com/tatw2021book/
その前提の上、フレデリックが語る、ティール組織の「セルフマネジメント(自主経営が可能となるプロセス)からの代表的な要点」を1つお伝えしますね。従来の組織では、特定の誰かが力を発揮できるシステムになっているかと思います。しかし、全員がそれぞれの持ち場で力を発揮できるようになれば、結果として、より柔軟で変化し続けられる組織になっていくのではないかという考えが根本にあるのです。これは、例えば、自然の山に冬の到来を伝える特定のボスは居らず、それぞれが冬の到来を感じて準備を始めることと類似しています。フレデリックは、自然のプロセスをティール組織のメタファーとして使っています。
この考え方を、同じく自然のプロセスである、畑という視点に置き換えると、「循環畑」も適切なメタファーの1つになります。なぜなら、「循環畑」は、従来の畑のように、人が主役として関与し続けなくても、そこに棲むあらゆる生き物たちが棲み分けを通じて、生を全うし、その中で野菜も自然と育っていくからです。つまり、人間という特定のプレイヤーだけに過度な依存をしていないのです。このような「循環畑」の体感があると、「いのちの循環」ということを頭ではなくて、身体感覚として感じて、捉えることが可能となります。逆に言うと、「いのちの循環」という体感がないと、フレデリックが言うような、組織の再考案を可能にするプロセスが花開くことは、日本や世界中での実践を見ていても、実現が困難であることを感じています。
ワクスタの会員の方には、経営者やチームリーダーの方も多くいらっしゃいます。彼らがティール組織のような組織をつくりたいと思った時に何から始めれば良いのでしょうか?
大前提として、「ティール組織に惹かれている皆さまの個人的な体験談、つまり、なぜ、自分はティール組織に惹かれているのか?」ということについての内省的な対話の継続が不可欠です。なぜなら、お伝えしたように、ティール組織自体は表面上のことであり、その奥にある個人個人の想いや組織観、世界を観る視点が大切であるからです。
上記の対話が十分になされているという前提の上で、助けになると思うことを、先ほどのティール組織での「セルフマネジメントの要点(全員がそれぞれの持ち場で力を発揮できるようになること)」に繋げて、お伝えします。組織にいる人々が、「それぞれの持ち場で力を発揮できるようになる」ためには、「組織に無用な滞りが無くなり、自然と循環している状態をつくること」が大切になります。これは、人体で言うと、まさに健康な身体に該当します。私はそのための段階を3つに分けて考えています。最初に必要なのが身体の循環、次に心の循環、最後に頭の循環です。
身体の循環では、「循環畑」をしたり、例えば、森の中で横になるでも良いので、自然の中でメンバーが一緒になって身体を使い、自然のいのちの循環を感じ合う共体験を継続することが重要です。なぜ、自然の中が良いかと言うと、自然の中では自然がいわゆる先生になるからです。上司や部下といったパワーバランスが自然の中だと働きづらくなり、一人の人間に立ち返りやすくなるためです。いのちの循環の身体感覚を継続的に取り戻すことが肝要です。
心の循環では、例えば、ペアワークでお互いに、「小さな喜びを感じた経験や楽しかった経験」などを語り合い、その経験から自分自身が「大切にしたいこと」を、お互いに共感的に聴き合うことがとても大切です。自分や同僚たちの「いのちが躍動していること」を感じられることが重要です。身体の循環も心の循環も、イベント的なことではなく、できる限り、日常的なプラクティスにすることが大切です。
最後が頭の循環で、これは、対話を通じて、例えば、「組織の目的面(パーパス面)、組織構造面、運営面(オペレーション面)、人間関係面、個人的な内面」という5つの視点において、「今、メンバーが感じている“循環したいこと(気になっていること、困っていること、新しいアイデアや気付き等)”を、気軽に出し合います。出し合った後、1つずつ、必要に応じて、次のアクションを生み出し、ベクトルを合わせていきます。これは、毎週のミーティング(30分~1時間程度)にすると同時に、日常の業務でも、頭の循環という視点を活用できるようになると、無用な滞り自体に自覚的になることができ、滞り自体が減少していきます。そのため、本当に意味のある仕事に集中することが可能です。
この3つの循環を継続的に実践することが、組織づくりにおいて大切だと考えています。メンバー全員が一気に、3つの循環を体験するというのは現実的ではないので、キーパーソン達の身体の循環から始めるということが多いです。
プロフィール
吉原 史郎
組織経営の進化(ティール組織・ソースプリンシプル<ソース原理>)
Natural Organizations Lab株式会社 / 共同創業者(代表取締役社長)